抑圧された熟年女性の変態性癖とは?覗き見・放尿・SM〈性の倒錯〉を描くラブ・サスペンス『ピアニスト』が与えた衝撃
中年女性の“性”を歪ませた“抑圧”とは
のっけから主人公エリカ(イザベル・ユペール)の母親が超過干渉ぶりを披露し、拳を(殴りたくて)ギュッと握りしめてしまう。まるで警察の取調室のように気が休まらない、かと思えば泣き落としにかかるクソバb……老いた母親。寝るときもベッドは隣り合わせの狭い実家で、仕事にも口出ししてくる……。まず、こんな地獄が映画の冒頭10分に詰め込まれている。
ピアノ教師をしているエリカはユペールが演奏もマスター(!)して演じていて、化粧っ気がなく地味ファッションでも関係なしに魅力的。ブノワ・マジメル演じる青年ワルターが惹かれるのも理解できるのだが、牢獄のような実家で長年抑圧されてきたエリカの性嗜好は、すでに完全に斜め上に振り切っていた。その奇行の数々には拒絶反応を示す人が多いと思うが、誰にも迷惑をかけない周到さなど妙にリアルを感じさせる。
『ピアニスト(2001年)』© 2001 Wega Filmproduktionsgesellschaft MBH / MK2 SA / Arte France Cinema / Les Films Alain Sarde
家族と一緒に観ちゃダメゼッタイ! な衝撃シーンの数々
エリカはポルノショップの個室に入り、捨ててあったティッシュを嗅ぎながら……。自宅のバスルームでカミソリを手に持ち、自ら陰部を……。若いカップルのカーセックスを覗き見しながら、その横で放尿……。こうして書き出すのも躊躇するような行為の数々だが、はじめは冷たくあしらっていたワルターの好意に応える形で関係を持ったエリカは、その歪んだ嗜好を彼にぶつけるようになっていく。
『ピアニスト(2001年)』© 2001 Wega Filmproduktionsgesellschaft MBH / MK2 SA / Arte France Cinema / Les Films Alain Sarde
そんな本作が“ヘンタイ映画”なのかといえばそんなことはなく、“フツーの”交際関係を築けないことへの苦悩や多くの女性が直面する性の不条理を突きつけられ、エリカの悲壮に涙する人もいるだろう。「痛々しい」などという表現は避けたいが、カンヌでは賛否の嵐を巻き起こしながらも審査員グランプリと女優賞&男優賞をかっさらっていったことが、この映画の与えた唯一無二の衝撃を物語っている。あのアリ・アスター監督らが生涯ベスト作品の一つに挙げるなど、多くの映画人がその影響を公言しているのも納得の傑作だ。
『ピアニスト(2001年)』© 2001 Wega Filmproduktionsgesellschaft MBH / MK2 SA / Arte France Cinema / Les Films Alain Sarde
『ピアニスト』はCS映画 ムービープラスで2024年7月放送
『ベネデッタ』、『ダンサー・イン・ザ・ダーク[4Kデジタル修復版]』はCS映画 ムービープラスで2024年7~8月放送
『ピアニスト』
ピアノ教師のエリカは、40歳を過ぎ、ウィーン国立音楽院のピアノ教授となった今も、厳格な母の支配から逃れられず、流行りの服も恋愛も許されずにいた。ある日、私的な演奏会の席で美しい青年ワルターに出会い、彼から情熱的に求められる。しかし、エリカは歪んだ秘密を抱えており・・・。
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:イザベル・ユペール ブノワ・マジメル アニー・ジラルド
制作年: | 2001 |
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CS映画 ムービープラスで2024年7月放送