「我々は文化と闘っている」天才ミュージカル作曲家が20周年『オペラ座の怪人』映画化秘話を語る!4Kデジタルリマスター復活上映記念
「つまり我々は、文化と闘っているんだ」
映画化に奔走していたロイド=ウェバーだったが、<ミュージカルの映画化>には長い困難が伴っていたと、苦笑まじりに明かす。
映画関係者から、こんなふうに言われたことがある。「オペラハウスで“歌う”ことは理解できる。でも、なぜ屋根の上で歌うのかは理解できない」――でも、それがミュージカルというものなんだ。
『サウンド・オブ・ミュージック』では山で歌う。修道院の中だけで歌うわけではない。つまり我々は、文化と闘っているんだ。
『オペラ座の怪人 4Kデジタルリマスター』© 2004 The Scion Films Phantom Production Partnership
しかし2002年、名作ミュージカルの映画化作『シカゴ』が大ヒット。ウェバーは「もちろん非常に異なるタイプのショーではあるが、あの映画で面白いミュージカルは映画になりえる、ということが証明されたんだ」と時代の変化を振り返る。
『オペラ座の怪人 4Kデジタルリマスター』© 2004 The Scion Films Phantom Production Partnership
ミュージカルの原作を脚色するに当たって、シュマッカー監督とともに主役たちの背景をさらに掘り下げ、オペラ座の舞台裏の世界をストーリーに付け加えたロイド=ウェバー。あるシーンを例に、ラウルの物語を膨らませた理由も明かしてくれた。
舞台のミュージカルでは、怪人の幼年時代に触れたが、映画版でやるように視覚的に戻ってみることはしなかった。
映画の冒頭、ラウルがオークションにいくシーンがある。そしてその後、亡くなったクリスティーヌの墓にまいるラウルが映し出される――そこで、この映画が<彼の思い出>であることが観客にはわかるんだ。
映画では、ファントム自身の物語が描かれている。彼の子供時代が語られているんだ。舞台でも触れてはいるが、映像として見ることはできない。とても大切な違いだよ。これでファントムについて、もっと深く理解することができるから。
『オペラ座の怪人 4Kデジタルリマスター』© 2004 The Scion Films Phantom Production Partnership
「ファントムには危険な香りが漂う。それを声で表現しなくてはならなかった」
本作ではジェラルド・バトラー(ファントム)、エミー・ロッサム(クリスティーヌ)、パトリック・ウィルソン(ラウル)の3人は吹き替えなしで全ての楽曲を歌い上げているが、このこともキャスティングの絶対条件だったという。
エミー・ロッサムはメトロポリタン・オペラで学んだ17歳のすばらしい声の持ち主だし、パトリック・ウィルソンはすばらしく自然で叙情的なテノールで、しかも<オクラホマ>などに出演するミュージカル俳優。ジェラール・バトラーはロック系のテノールだった。
彼らの声のバランスがとても重要だった。ファントムには少しロック的な感性があり、少し荒削りで、少し危険で、型にはまらない歌手が必要だった。なぜならラウルを演じるパトリック・ウィルソンが見事な叙情的テノールだし、映画を見た時にクリスティーヌがなぜファントムに惹かれるのか、観客がすっと理解できなくてはならないからだ。ファントムには危険な香りが漂う。それを我々は声で表現しなくてはならなかったからね。
『オペラ座の怪人 4Kデジタルリマスター』© 2004 The Scion Films Phantom Production Partnership
またロイド=ウェバーは、愛する作品の本質を見失わず見事に映画へと進化させた、シュマッカー監督の手腕も絶賛する。
映画版は、舞台作品からは大きくそれずに、より深い感情表現が中心となっている。視覚的また演出面では、舞台版に基づいてはいないが、本質は全く同じだ。それは、私が望んでいたことに他ならない。
『オペラ座の怪人』には、すばらしい目だけでなく、すばらしい耳を持ったシュマッカー監督がいた。彼は理解していた。なぜ、ここはカットすることができないのか。ミュージカル的理由を理解してくれていたんだ。
そして、そのミュージカル的理由が全てを引っ張っていた。それが映画監督とのコラボレーションのすばらしさの一つだ。我々は最高の時を持つことができたよ。
『オペラ座の怪人 4Kデジタルリマスター』© 2004 The Scion Films Phantom Production Partnership
▼ざっくり解説!「オペラ座の怪人」とは?
ガストン・ルルーの小説を元に、アンドリュー・ロイド=ウェバーが1986年に作曲し、ロンドン・ウエストエンドにあるハー・マジェスティーズ劇場で初演された「オペラ座の怪人」。日本では、劇団四季によって1988年から各地でロングラン公演を果たしており、世界で1億6000万人が観劇。2004年、ロイド=ウェバー自身が製作・作曲・脚本を務め、『バットマン・フォーエバー』などのジョエル・シュマッカー監督とともにこだわりぬいて映画化。
2005年1月29日に日本で公開されると、リピーター続出の空前の大ヒットとなり当時のミュージカル映画史上最高興行収入を誇り、全世界興収の40%以上を日本が占めた伝説の作品。映画版では、舞台では描かれないファントムの出生の秘密やラウルとの決闘シーンも映画では追加されている。
『オペラ座の怪人 4Kデジタルリマスター』© 2004 The Scion Films Phantom Production Partnership
パリ・オペラ座を舞台にした豪華絢爛な美術と衣装や装置の数々、高さ約5m、幅4m、2万個からなるスワロフスキー・クリスタル製のシャンデリアは圧巻。巨大なシャンデリアが落ちていくクライマックスの名シーンは息をのむスペクタクルだ。また、メインテーマ曲の「The Phantom of the Opera」をはじめ、名曲の数々は、きっと誰しもが耳にしたことがあるはず。
主演のジェラルド・バトラー、エミリー・ロッサム、パトリック・ウィルソンら主要キャスト3人は全ての歌唱を本人が行い、映画のためにロンドンのアビーロードスタジオにてフルオーケストラで収録された。第77回アカデミー賞では撮影賞、美術賞、歌曲賞(「Learn To Be Lonely」)にノミネートされ、世界的に高い評価を得ている。
『オペラ座の怪人 4Kデジタルリマスター』は2024年6月14日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー