「麻薬ダメ、ゼッタイ」を大マジメに訴えたヒップホップ映画?SNSでバズり続ける『ニュー・ジャック・シティ』とは
SNSでミーム化する『ニュー・ジャック・シティ』の魅力
米ニューヨーク、数年前まで縄張り争いを繰り返すチンピラだったニーノ・ブラウン。彼はクラック(コカインを加工した違法薬物)を足掛かりに暗黒街の階段を急速に昇り始め、一大ドラッグ帝国“ニュー・ジャック・シティ”を築き上げる。一方、母親を麻薬患者に殺害された捜査官スコッティ・アップルトンは、ニーノを倒そうと執念を燃やしていた――。
『ニュー・ジャック・シティ』© Warner Bros. Entertainment Inc.
本作で描かれるようなドラッグ売買や常用者との関係、犯罪としての規模も今では変化しているものの、大国アメリカを悩ませ続けている問題であることには変わりない。物語を彩る楽曲(ニュージャックスウィング)は過剰にアッパーだが、売人側も警察側も終始ピリついていて、元売人のプーキー(クリス・ロック)が泣きながらクラックに手を出してしまうシーンは、いつの時代も使い捨てされる社会私的弱者の悲哀が詰まっている。
『ニュー・ジャック・シティ』© Warner Bros. Entertainment Inc.
ラッパーがたった1曲のバイラルヒットで何億も稼ぐような現在では想像できないが、00年代以前は音楽で成功して一旗揚げるよりも、勝手知ったるストリートでドラッグを売って手っ取り早く稼ぐほうが現実的だった。若いアーティストたちがそうしたバックボーン(前科)をウリに“リアル”を謳う必要がなくなったこと、資本に頼らず独力でも成功をつかめるようになったことは、ひとまずポジティブな変化と言えるだろう。
『ニュー・ジャック・シティ』© Warner Bros. Entertainment Inc.
ド派手な80年代ヘア・メタル、ハードロックが“退廃”を歌うグランジ勢に取って代わられた90年代。その源流となったインディーギターロック/ポップが再び脚光を浴びた2000~2010年代。本作はニュージャックスウィングを時代を象徴するBGMとして採用したが、最大の“罪人”が国家であることが改めて露呈した2020年代は、犯罪映画の劇伴も不穏なアンビエントが主流となっている。
本作のハイライトである、泣きながらコカインを吸うクリス・ロックや涙ながらに仲間を処刑するウェズリーのシーンは、のちにSNSで定番のミームとなった。ともあれ、いわゆる音楽映画よりも間口の広いクライムアクションなので、TV放送中の今こそ鑑賞してみては?
『ニュー・ジャック・シティ』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2025年1月放送