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なぜ人は「アンチヒーロー」に惹かれるのか?『クレイヴン・ザ・ハンター』濃厚考察&対スパイダーマンへの期待

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ライター:#てらさわホーク
なぜ人は「アンチヒーロー」に惹かれるのか?『クレイヴン・ザ・ハンター』濃厚考察&対スパイダーマンへの期待
『クレイヴン・ザ・ハンター』MARVEL and all related character names: © & ™ 2024 MARVEL
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家父長制を煮しめて特盛にしたようなラッセル・クロウ

謎の女・カリプソ(『ウエスト・サイド・ストーリー』[2021年]を牽引していたアリアナ・デボーズ)に与えられた秘薬でもって身体能力が爆発的に向上、人間を超えたハンターとして覚醒するあたり、映画は原作と同様の展開を見せる。が、実写作品としてコミックより大きく扱われているのが主人公と、その邪悪な父親ニコライとの関係だ。

ロシアン・マフィアの大物で、自分の息子たちが小さな時分から愛情のひとつもかけず、男として、支配者としての強さだけを叩き込んできた。この親父役がラッセル・クロウ。最近では『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(2024年)の回想場面に出てきて思わず「ほ、細い!」と声に出しそうになったけれども、あれから身体のサイズが3倍近くなったいま、異常ともいえる貫録を身につけている。

メイキングカット
『クレイヴン・ザ・ハンター』MARVEL and all related character names: © & ™ 2024 MARVEL

この人が頼れる神父に扮した『ヴァチカンのエクソシスト』(2023年)などでは、その貫録が大いにプラスに働いていた。しかし、たとえば超・煽り運転のオッサン役で主人公のことも観客のことも殺しにきた『アオラレ』(2020年)のように、頭のネジが全部外れた男をラッセル・クロウが演じる場合。この男と同じ空間にいるだけで死ぬのではないか、と思わざるをえないほどのプレッシャーを、その肉体と眼力でもって必要以上に発散してくる。

今回はもちろん完全にイヤなほうのラッセル・クロウである。人を人とも思わない、家父長制のどうしようもない部分だけを煮しめて特盛にした親父を、若き主人公がどうやって超えていくのか。どうやってアンチヒーローとして、2本の足で立っていくのか。

『クレイヴン・ザ・ハンター』MARVEL and all related character names: © & ™ 2024 MARVEL

強大な悪と”手段を選ばず”戦うアンチヒーロー

最初に書いた通り、アンチヒーローたることの条件には体制に反逆することが含まれる。さまざまに悪い奴らが登場する本作。それぞれと主人公との激しい戦いも、もちろん見どころには違いない。しかし、あまりに強すぎるクソ親父を最大の敵として、あるいは強大すぎる体制の象徴として設定したあたりに、『クレイヴン・ザ・ハンター』のアンチヒーロー誕生譚としての正しさがある、と思う。

コミックではスパイダーマンの宿敵=ヴィランとして生まれたクレイヴン。映画はそんな男を、体制に対峙するアンチヒーローとして描く。自分を縛るものを突破するためなら暴力さえ辞さないところが、その最大の魅力ではないだろうか。

『クレイヴン・ザ・ハンター』MARVEL and all related character names: © & ™ 2024 MARVEL

実現なるか?「ヒーロー対アンチヒーロー」への期待

2018年の『ヴェノム』以来続く、ソニー・ピクチャーズによるマーベル原作映画たち。今回の作品もその系譜に連なる。「スパイダーマン」の世界を舞台にしながら、肝心のヒーローという中核を抜きで、周辺キャラクターの単独主演映画を作る。そう聞いたときには「大丈夫か……?」と思ったものだ。ヴィランからアンチヒーロー、さらにはヒーローとしてのポジションをすでに固めていたヴェノムはまだしも、『モービウス』や『クレイヴン・ザ・ハンター』はなあ、と。

しかし少なくとも今回の映画に関していえば、スパイダーマンという絶対的存在がないだけ、クレイヴンの物語により集中できることは確かだ。スパイダーマン・フランチャイズという枠を外しても、人知を超えた最強ハンターの映画として楽しめることは間違いがないといえる。ただし問題はこれからだ。今回せっかく生まれたクレイヴン・ザ・ハンターは、これからどこへ行くのか。「打倒スパイダーマン」という目標が、そのキャラクター性の大きな部分を占めることは間違いない事実だ。

『クレイヴン・ザ・ハンター』MARVEL and all related character names: © & ™ 2024 MARVEL

原作において、この男がヒーローに対して最後の、命がけの大勝負を挑む「クレイヴンズ・ラスト・ハント」は「スパイダーマン」コミック史上屈指の名エピソードに数えられてもいる。今回、主演のジョンソンもスパイダーマンとの対決を熱望していることだし、ここはひとつヒーロー対アンチヒーローの激闘を映画で観てみたいと思うが、そのあたりどうだろうか。

文:てらさわホーク

『クレイヴン・ザ・ハンター』は2024年12月13日(金)より日米同時公開

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『クレイヴン・ザ・ハンター』

冷酷な父親(ラッセル・クロウ)と狩猟に出た際、巨大なライオンに襲われたことをきっかけに、百獣の王の力を体に宿し容赦なきハンターと化したクレイヴン。狩りの対象は、金もうけのために罪無き動物を狩る人間たち。一度狙った獲物は確実に仕留めるまで、あらゆる手段を使ってどこまでも執拗に追い続ける。次々と狩りを実行し、彼らを動かす大きな組織へと近づいていくが・・・。立ちはだかるのは、全身が硬い皮膚に覆われた巨大な怪物ライノ。さらに、病弱な身体を持つ最愛の弟が危険にさらされたことでクレイヴンは激昂。やがて裏の世界の殺戮者と呼ばれる自らの父親と対峙することになる。激しくエスカレートする怒りと共に、暴走していく狩りが行きつく先は――?

監督:J・C・チャンダー(『トリプル・フロンティア』『マージン・コール』)
脚本:アート・マーカム&マット・ホロウェイ(『アンチャーテッド』『アイアンマン』)、リチャード・ウェンク(『イコライザー』シリーズ)

出演:アーロン・テイラー=ジョンソン(『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』『ブレット・トレイン』)、アリアナ・デボーズ(『ウエスト・サイド・ストーリー』)、フレッド・ヘッキンジャー(11/15公開『グラディエーターII』)、アレッサンドロ・ニヴォラ(『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』)、クリストファー・アボット(『哀れなるものたち』)、ラッセル・クロウ(『ソー:ラブ&サンダー』『ヴァチカンのエクソシスト』)

制作年: 2024