【永久保存】巨匠ジョージ・ルーカス濃厚トーク完全レポ! カンヌで「映画人生」振り返り盟友コッポラと抱擁【超貴重】
「自分が若いころ夢中になっていたものを撮ってみたのが『アメリカン・グラフィティ』」
ゾエトロープ・スタジオの1作目として『THX-1138』を長編にして作ることになった。ウォルター・マーチに手伝ってもらって完成させたのはいいけれど、さて、どうしよう……というときに、カンヌ映画祭の監督週間(※作家性のある監督が世界に出ていく登竜門的部門)を知ったんだ。
PrimeVideo『THX-1138 ディレクターズカット (字幕版)』No Rating © 1970/Renewed © 1998, THX 1138 The George Lucas Director’S Cut © 2004 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
とにかく、カンヌに行ってほかの国の若い監督たちの映画を見てみようぜ、というつもりでね。何が必要かとか、いくらかかるかとか考えもせず、カンヌに来たわけだ。パスもチケットもないから、会場に潜り込んで観ていたんだよ(笑)。あとになってジャーナリストに、「なぜ『THX-1138』のプレス・カンファレンスに出てこなかったのか?」と聞かれたんだけど、そんなものがあることさえ知らなかった(笑)。
「何を作りたいのか」と聞かれては、「1920~30年代のSF、『フラッシュ・ゴードン』みたいなのを作りたい」って言っていたよ。でも、当時は『イージー★ライダー』(1969年)ショックの時代でね、バッド・エンディングが流行っていたんだ。スタジオは、若者を劇場に呼ぶにはどうすればいいかわからなかった。ロジャー・コーマンが若い映画学生の監督を雇って、低予算で映画を作らせていたよ。
R.I.P. Roger Corman (1926-2024) pic.twitter.com/7fv5Uemhtl
— The Film Stage 📽 (@TheFilmStage) May 12, 2024
ゾエトロープも若い会社だったし、フランシスは『ゴッドファーザー』(1972年)にかかりっきりで、スタジオとしょっちゅう揉めていた。ならば若者が見たいものを、自分が若いころ夢中になっていたものを撮ってみようと『アメリカン・グラフィティ』を撮った。ユニバーサルはギリギリの予算と時間しか許さなかった。
ところが、これが大ヒットになったんだ。といっても、最初ユニバーサルは乗り気ではなかった。誰もスターが出ていないし、観客は喜ばないだろうって。そこでプレビューに条件を出した。「フィルム・ピープルやマーケッティング・ピープルを排除して、一般のお客を入れて大スクリーンの劇場でプレビューをしてほしい」ってね。
これがすごかった。観客はロックコンサートのようにノリノリだったんだ。だが、それでも会社は信用しなかった。観客が枯れる8月に、たった15スクリーンで公開したのさ。ところがロングランした上に、100億ドルを超えるヒットになった。アカデミー賞にもノミネートされたしね。これにはみんな驚いた。自分たちも会社も、映画界も。それで(映画プロデューサーの)アラン・ラッド・Jr.が、「何をやりたい? 次は一緒にやろう」と言ってくれたんだ。
RIP Alan Ladd Jr., the legendary, Oscar-winning producer of BRAVEHEART, CHARIOTS OF FIRE, GONE BABY GONE, and so much more.
Ladd also gave George Lucas the official greenlight to make STAR WARS during his tenure at 20th Century Fox.
Thanks for all you shared with us, Alan. pic.twitter.com/FyfKUi7ajB
— The Black List (@theblcklst) March 2, 2022
――ここでやっと話題は『スター・ウォーズ』サーガに到達する。すでに80分が経過していた。
「(『アメ・グラ』について)僕は好きだ」とアラン・ラッド・Jr.は言ってくれたんだけれどね、当時は時代が暗かったから。ベトナム戦争が続いていたし、スタジオの経営は行き詰まっていた。SFのスペースオペラなんて誰が見たいものかと、どの会社も門前払いさ。ばかばかしい、子供だましの活劇なんて古臭いものを、というわけだ。
「『スター・ウォーズ』は子供たちが見たいと思っている物語、彼らに見せたい物語なんだ」
――最終的にラッドが20世紀FOXを説得して作れることになったわけだが、とんでもない苦労の連続だったことは、よく知られているだろう。時間も限られているので司会は撮影の苦労話はスキップして、最後の音入れ、つまりジョン・ウィリアムズの起用について話を振った。
音楽について、スティーヴン・スピルバーグに相談してみた。フルオーケストラで『ピーターと狼』(1947年)みたいな感じにするか、またはジャズなんてどうだろう、ってね。するとスティーヴンは言った。「クラシカルな映画にはクラッシック音楽じゃないと。『JAWS/ジョーズ』(1975年)を見たろう? ジョン・ウィリアムズを紹介するよ」ってね。音楽は映画の秘密の隠し玉みたいなものなんだ。予算の25パーセントを音楽にかけたっていいくらいさ。
――確かに、ジョン・ウィリアムズの“あのテーマ”なしの『スター・ウォーズ』なんて想像できない。
観客は大喜びしてくれた。けれど批評家は叩くんだよ。「キッズ・ムービーだ」って。そうだよ、『スター・ウォーズ』はキッズ・ムービーなんだ。10歳~16歳の子供たちが見たいと思っている物語、彼らに見せたい物語なんだ。ダークな時代に、友達や兄弟が棺に入って帰ってくるような時代に、子供たちに何が大切か、映画で何を見せてやりたいのか、だと思うよ。
GEORGE LUCAS filming The Phantom Menace with a t-shirt with the New Yorker’s review of STAR WARS: Comic-book characters, unbelievable story, no political or social commentary, lousy acting, preposterous dialogue, a ridiculously simplistic morality. In other words, a BAD MOVIE. pic.twitter.com/96mYQk8OvN
— All The Right Movies (@ATRightMovies) June 1, 2024
「黒人が出てこない」なんて言われることもあった。ランド・カルリジアン(演:ビリー・ディー・ウィリアムズ)は重要な役だし、複雑な人物じゃないのか? 新三部作のサミュエル・L・ジャクソン(メイス・ウィンドゥ役)は最高位のジェダイで、紫のライトセーバーを使う人物だ。人種差別的だなんて意見も出るが、『スター・ウォーズ』の世界ではみんなイコールな存在なんだよ。
.@empiremagazine asked me some questions about the @starwars prequels and I told them THE TRUTH‼️ Long live MACE WINDU 👊🏾👊🏾💥 🪐 #macewindu #starwars @Lucasfilm pic.twitter.com/6NBRGpa6Xy
— Samuel L. Jackson (@SamuelLJackson) February 17, 2024
人間もエイリアンも、どこの星の住人だろうと部族だろうと、みんな同じ存在であることが大事なんだ。どこから来ようと、どんな見かけをしていようと、みんな同じ生命なのさ。子供たちにも、そこのところをわかってほしいと思っている。それから「女性が描けていない」とも言われるけれど、じゃあレイアはどうなんだと言いたいね。彼女は反乱軍のリーダーであり、誰よりも賢く、勇気があって実行力もある。オール・ウーマン・キル・エブリバディ、ということなんだ。
――『スター・ウォーズ』の公開された時代はフェミニズムが進んでいく時代でもあった。アメリカの70年代フェミニズムでは、男女平等の行き着く先は「オール・ウーマン・キル・エブリバディ」であったかもしれない。ここにはちょっと違和感を感じたが、レイア姫は戦争下の兵士でもある。引き金を引くのに躊躇してはいられない。
“Leia Organa’s fearless bravery, intelligence, sharp wit, and commitment to fighting galactic tyranny make her an inspiration not only to the Rebellion, but to generations of Star Wars fans around the world.” pic.twitter.com/9zOGjXTEwO
— Star Wars (@starwars) March 8, 2021
「黒澤は天才だ。だから新作をコッポラとプロデュースすることにした」
――ディディエは聞く。「『スター・ウォーズ』のない世界は想像できますか?」。ルーカスはこう答える。
もう、ほとんど来ているね。67歳になったときに考えたんだ。これから先、79歳になっても『スター・ウォーズ』を作っていくのか? と。それで、手放す時が来たと思った。新しい暮らしをしよう、とね。アイデアはまだまだあったよ。でも、あきらめることにした。
#StarWars Land: Take your first look into new @Disney attraction via #drone – https://t.co/NBVHOsk2z8 #KPRC2 pic.twitter.com/CtAhkqw2ZW
— KPRC 2 Houston (@KPRC2) March 9, 2018
――2012年、ルーカスは<ルーカス・フィルム>をディズニーに売却した。
『帝国の逆襲』が終わったあたりから、他に何をしたいか考えるようになって、“才能のある人を助けたい”と思った。今ならそれができる、ってね。
そんな時、黒澤明が時代劇を作りたがっていると知った。黒澤は天才だ。でもスタジオはやりたがらない。馬がたくさん出るので金がかかるから、って言うんだ。それはおかしい。絶対に作られるべきだと思った。それでフランシスとプロデュースをすることにした。配給権を、日本国内は日本で持ち、海外のセールを僕らが持つという条件でね。それが『影武者』(1980年)だ。
Akira Kurosawa, Irvin Kershner, George Lucas & Francis Ford Coppola during the filming of ‘Kagemusha’ (1980). pic.twitter.com/vSVzDgF7hQ
— DepressedBergman (@DannyDrinksWine) April 16, 2024
――他にもポール・シュレイダーの『MISHIMA』(1985年)、ハスケル・ウェクスラーの『ラティノ』(1985年)、ジム・ヘンソンの『ラビリンス/魔王の迷宮』(1986年)などなど、ルーカスがエグゼクティブ・プロデューサーとして制作を支援した作家や作品は数多い。
「ラビリンス 魔王の迷宮 4K ULTRA HD & ブルーレイセット [4K ULTRA HD + Blu-ray]」TM & ©1986, 2005 THE JIM HENSON COMPANY. LABYRINTH IS A TRADEMARK OF THE JIM HENSON COMPANY. LABYRINTH CHARACTERS ©1986 LABYRINTH ENTERPRISE. ALL RIGHTS RESERVED.
僕はね、映画を作りたいんだ。金儲けをしたいんじゃない。それはずっと変わらない。才能があって、映画を作りたがっている人がいれば、作ればいい、僕が助けるよ、ということだ。どこから来ようと関係ない。僕たちの仲間、同時期に学生で映画を作りたがっていて、お互いによく知っている仲間たち、フランシス、マーティン・スコセッシ、スピルバーグはみんなそう思っていると思う。
共通しているのは、“自分が好きだから作る”というところだね。プレビュー(※反応を測るための事前試写)とかフォーカス・グループ(※情報収集のための少数顧客グループ)とか、マーケティングがリードするようなシステムは嫌いだ。そんなもので本当に観客が求めているものなんてわからないよ。『スター・ウォーズ』がそれを証明している。インベストメント(※投資、株式購入)なんてしちゃいけない。無駄だよ。
第77回カンヌ国際映画祭「ランデヴー・アヴェック ジョージ・ルーカス」(撮影:まつかわゆま)
こういうことを言うと、スタジオの人間は「君たちはわかっちゃいない」と言うけれど、フランシスをごらんよ、また作っているじゃないか(笑)。好きなものを、作りたいから、作る。そのパッションが大事なんだ。
――満場の観客の拍手と歓声、口笛が、ドビュッシー劇場に響き渡る。永遠の映画少年ルーカスをたたえて。この観客の中からルーカスやコッポラ、スピルバーグやスコセッシに続く映画作家が誕生していくに違いない。
取材・文・撮影:まつかわゆま
#CannesMoments | Dans quelques heures, George Lucas recevra une Palme d’or d’honneur lors de la Cérémonie de clôture du 77e Festival de Cannes. En attendant, retour sur un moment choisi de sa masterclass ! #Cannes2024
—–#CannesMoments | In a few hours’ time, George Lucas… pic.twitter.com/cC4h1NRtr4
— Festival de Cannes (@Festival_Cannes) May 25, 2024