「本当は隠したいフランスの真実」描いた『レ・ミゼラブル』製作陣の新作がスゴい!『ティアーズ・オブ・ブラッド』&『バティモン5 望まれざる者』
『バティモン5 望まれざる者』©SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023
大都会パリの知られざる暗部を浮き彫りにする『バティモン5 望まれざる者』
「バンリュー」と呼ばれるパリ郊外部。ここに立ち並ぶいくつもの団地には労働者階級の移民家族たちが多く暮らしている。このエリアの一画<バティモン5>は再開発が検討されており、老朽化が進んだ団地の取り壊し計画が進められていた。
市長の急逝で臨時市長となった医者のピエールは、汚職を追及されていた前任とは異なり、クリーンな政治活動を行う若き政治家。居住棟エリアの復興と治安改善を政策にかかげ、理想に燃えている。一方、マリにルーツを持つフランス人女性アビーはバティモン5の住人であり、移民たちのケアスタッフとして働きながら行政の怠慢な対応に苦しむ住人たちの助けになりたいと考えている。
アビーは友人ブラズの手を借りながら、住民たちが抱える問題に向き合う日々を送っていた。かねてから行政と住民との間には大きな溝があったが、ある事件をきっかけに両者の衝突が激化。バティモン5の治安改善のために強硬な手段をとる市長ピエールと、理不尽に追い込まれる住民たちを先導するアビー、やがて両者間の均衡は崩れ去り、激しい抗争へと発展していく――。
『バティモン5 望まれざる者』© SRAB FILMS – LYLY FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023
息が詰まりそうな社会問題と一筋の希望
『レ・ミゼ』のラジ・リ監督のもとに製作スタッフが再び集結し、バンリューが抱える問題を持ち前の臨場感と新しい視点を交えて生み出した『バティモン5 望まれざる者』。数々の映画賞を受賞したアレクシス・マネンティも『レ・ミゼ』に引き続き登場するが、本作では存在感の“変化”に注目してほしい。
『バティモン5 望まれざる者』© SRAB FILMS – LYLY FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023
団地の動かないエレベーターが象徴するように、本作には『レ・ミゼ』と地繋がりのテーマがある。人種間の諍いの裏側で“見えない化”された怒れる子どもたちの姿も衝撃的だった『レ・ミゼ』から、立場の異なる移民同士の軋轢などは引き継ぎつつ、本作では<行政の圧力×翻弄される住民>という構図を軸にしたことで、より多くの人に普遍的に響く“物語”になっている。
『バティモン5 望まれざる者』© SRAB FILMS – LYLY FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023
「行政の圧力」と言うと実感が薄いが、現在アメリカの大学で起こっているアレと例えれば、その横暴ぶりが分かるだろう。“改善”と騙る肉体的・精神的な迫害・攻撃は、反発を超えて取り返しのつかない怒りを引き起こすこともある。アリストート・ルインドゥラ演じる青年ブラズの“爆発”はラジ・リ監督の怒りでもあるはずだが、監督は突き上げた拳を振り下ろすことはせず、一縷の希望としてアビーのような若者たちを丁寧に描いてみせた。
『バティモン5 望まれざる者』© SRAB FILMS – LYLY FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023
都市開発の名のもとに富める者たちが主導する選民政策は他人事ではない。メディアの偏向報道を隠れ蓑にした国家による詐欺行為が横行する世界に、わたしたちも生きているのだ。限りなくノンフィクションに近いフィクションである本作は、政策の不備を国民の怠慢にすり替えようとする権力者に対し“正しく怒ること”の重要性を訴えかけてくる。
『バティモン5 望まれざる者』は2024年5月24日(金)より全国公開